moogaboogaさんインタビュー後編は、仕事に関するいろんな質問から、その作風につながる「物に対する思い」を詳しく聴きました!
インタビュー前編はこちら
Q:コマ撮り手法はどういうのが多いですか?
真:8割がマルチプレーン撮影ですね。みんなのうたは全部マルチ。『モノだらけ!』はカットごとにマルチと立体を使い分けてます。「主人公が物」ってテーマなので立体物は立体で撮影したくなるから、そのときだけ立体で撮影してます。
moogaboogaさん自宅にあるマルチプレーン台。真さんがコマコマ隊Tシャツを着てくれてます!
Q:普段やるアニメのフレームレートは?
真:ほとんど12fpsですね。『モノだらけ!』の最初の時は24でやっていたけど。12はコマ撮りらしさも出つつ扱いやすいかな。
Q:いつも使ってるカメラは?
真:EOS Kiss X5をずっと使っていたんですが、古いのでだんだんドット欠けとかしてきて、なので最近買い替えまして。EOS RP(2019年にキヤノンが発表したフルサイズミラーレスカメラ)。フルサイズだけど小型みたいな、上級モデルのエントリータイプっていう感じかな。
Q:タイムシートは使いますか?
文子:私は書く時もあるけど、8割書かないです。事前に動きのイメージをして動きのポイントのメモなど書いたりします。
真:僕は毎回書こうと頑張るんですけどなかなか書けないんですよ。アニメートにもよるんですけど、最近はバーシートっていうのを使ってます。これ1秒ごとの仕切りがあるだけなんです。1コマ1コマ細かく決めるんじゃなくて、何秒後にはこういう動きがはじまるっていう大体の動きを決めるだけ。後は撮影しながら細かく決めていくっていう方が多いですね。
※バーシートの情報は1983年に発売されたアニメーションの技法書『アニメーションのタイミング技法』にあったもので、そこから真さんがフォーマットを自作して使っているそう。
仕事のやり方について
真:キャラ造形から撮影・アニメート・編集まで、1つの作品をまかされたら音楽以外は全部自分たちでやりますね。
泰人:アニメートは2人ともされますか?
真:一応どっちもするんですけど、今は子供も産まれたので、生まれた直後はやはり妻が子供を見なきゃいけない時間もあって。アニメートは時間がかかるので、僕がアニメートすることが多くなってますね。僕がアニメートしてる裏で妻に美術を作ってもらうっていうのが多いかな。
編集作業も僕がしてます。今はそういうふうに分担してる感じになってますね。
泰人:造形の仕事だけ請けることはありますか?
真:一度あったんですけど、企画自体が消えちゃいましたね。
あと僕達が作っているものがちょっと個性が強すぎるのか、万能じゃないんですよ。作り方もちょっと特殊というか、毎回違う手法とか素材でやっていて、毎回違うことをやってるんですよね。『モノだらけ!』は 主人公が毎回違うし、立体だったり半立体だったりするし。みんなのうたも毎回全く違う素材を使ってます。
毎回毎回試行錯誤してるから、1つの技術のノウハウも溜まってないんですよ(笑)
泰人:分かります。僕も毎回違う素材で撮影するのでノウハウが取っ散らかってますよね。(笑)
真:だから、僕たちはこういうことができますとか言いにくくて、自分たちのイメージが定まってない感じかな。
文子:普通に可愛い感じのキャラクターとか作れてないよね(笑)
泰人:仕事はNHKが多いですか?
真:ほぼ NHK の仕事ですね。CMとか他から全然ないですね。でも、今後は他の仕事もしたいです!moogaboogaの色がなかなかに濃いので難しそうに思われるかもしれませんが。
全然仕事がないときは色々とバイトしたりもしてます。あといまは僕が個人でアニメーターとしての仕事もしてます。
Q:『てとてとパタン』や『ケチャップチャップ』はリズム感のある歌にあわせて作られてますが、それはどう作ってますか?
※『ケチャップチャップ』
みんなのうた、2019年4月5月の新曲。オムライスを作る夫婦とケチャップのキャラクターが可愛くダンスするコマ撮り。
真:音楽データをDragonframeに読み込ませて、プレビューでちょっとずつ聴きながら撮影をしていきます。でも僕はドラムとか小さい頃からやってて、音楽に同期させるってのをあまり苦労しなくてもできる方なんだと思います。あんまり気を使わずに出来てます。
Q:好きなコマ撮り作品は?
ポヤル、クエイ兄弟
真:僕はやっぱりチェコアニメが好きで、フィルムの作品の質感とかがやっぱり好きなんですよね。チェコでいえば一番はポヤルさん(※)かな。
ポヤルさんからはめっちゃ影響を受けてます。人形アニメって重さが出ちゃうところがあるって思ってて。だけどポヤルさんのアニメートって軽やかさを感じさせる。軽やかさを感じる作品ってそう多くなくて。立体の作品も半立体のレリーフの作品も可愛らしくて有名なんですけど、半立体だから軽やかなのはあるんですけど、たぶんリズム感がすごい良くて、その動きのリズムが軽やかさを出しているのかな。そこが見ていてすごく気持ちいい。
泰人:moogaboogaさんの『てとてとパタン』とか『ケチャップチャップ』の動きも軽やかだなと思ってました。
真:そうですね。そういうのはすごく影響を受けてると思います。
それとクエイ兄弟(※)の『ギルガメッシュ/小さなほうき』が好きですね。クエイ兄弟はチェコアニメじゃないですけど。当時のフィルムで作られている作品ってコマ撮りアニメの質感が全体的に出てるんですけど、動きに野性味があるというかそういう部分が好きで、クエイ兄弟はもうちょっとアングラな魔術的な雰囲気もあるじゃないですか。『ギルガメッシュ/小さなほうき』はダークな感じでちょっと変な感じがありますが、そういうのがうまい具合に混ざった作品だと思っていて。キャラクターの造形も可愛いらしさとグロテスクさが同居しているみたいな。そういうところがすごい好き。動きも凄い魅力的なものになってるから総合的にすごい好きなんです。
※ブジェチスラフ・ポヤル
チェコアニメの巨匠。(1923年生まれ,2012年死去)代表作はチェコアニメ史上最高傑作とも言われる『ふしぎな庭』など多数。
*クエイ兄弟
スティーブン・クエイとティモシー・クエイの双子の兄弟の映像作家。(1947年生まれ)悪夢のような不気味で幻想的な独特な世界観が特徴。世界でカルト的な人気を誇る。
コ=ホードマン『砂の城』
文子:一番上げるならさっきも言った『砂の城』かな。本当にすごく楽しい作品ですよね。撮影としては考えられないようなすごく難しいこと、めちゃくちゃすごいことをしているじゃないですか。でもそんなことを越えた異次元の楽しさを感じる。子供の頃の遊びに夢中になっていたこととか、その世界に没頭している時間とか、そういうことを体感するようなアニメだと。それがすごいなと思っています。
真:コ=ホードマンは僕も好きです。物に命を宿すことってアニメートの側面として強いじゃないですか。そういうことを考えてる時に、コ=ホードマンほど物と対等というか、物が生きているのを肯定している作家さんはいないなと思っていて。なんかこう全ての事を肯定しているというか、物と人間が対等に存在していると言うか。そういうのがコ=ホードマン作品の全体の世界観としてあるなと思っていて、そこがすごい好き。アニメーションを作ること自体が人生になっている人の作品だなって感じます。
コマ撮り以外で好きな映像作品はなんですか?
アメリ
真:僕小さい時アニメもあんまり見なかったんで、コマ撮り以外にってなると映画とかテレビになっちゃいますけど、今はパッと『アメリ』しか思いつかないな。『アメリ』はDVDとかで見ると、見始めた時から毎回うるうるしてる、めんどくさいけどね(笑)
文子:めっちゃ特別だよね(笑)
真:なんだろうな、あんまり語れないぐらいに好きなんですよ(笑)話もいいし映像もいいし音楽もいいし、全部がいいんですよ。
アメリのはじまりに、何年何月何日にここの場所でこういうことが起きていた、何年何月何日ここではこういうことが起きていた、っていうシーンがあって、この世界に起きている大事件じゃないけど些細な事にフィーチャーする、そこから世界の豊かさが見えてくるみたいな、そういう見せ方をしているんじゃないかと思っていて。
印象的な描写として思い出せるのは、カフェテラスでテーブルクロスが風でちょっとフカフカ浮いてて、そこにあるワイングラスが揺れて踊ってるみたいな描写があって。些細なことの魔法みたいなことが散りばめられていて豊かな映画になってるなって印象があります。
ローマの休日
文子:私は好きな映画って聞かれていつも答えているのが『ローマの休日』なんですけど。
単純にオードリーヘップバーンが好きなんです、『ローマの休日』のオードリーがすごい華やかで。最初はオードリーヘップバーンを見るためだけにただ見てたんですけど、何回も見るうちにストーリーとか演技とか、映画のエンターテイメントの要素が詰まっててすごく面白いなってなりました。
アレクサンダー=カルダー
文子:あともう一つ、アレクサンダー=カルダーっていう彫刻家。その人が1人で人形を操ってサーカスをする人形劇みたいなのをやってるんですけど、その公演を収めた映像があって、それが好きですね。
有名な彫刻家で、美術館などで大きなモビールの作品とか見かけると思います。
アレクサンダーカルダーさんの人形の作品は造形がすっごい素敵で、突飛な形をしていながら人形に芯が通っているというか説得力があって。その人形を使ったパフォーマンスがあって、手で動かしたり、カラクリがあったりするんですけど、その動きや人形の表情が好きで、影響を受けています。DVDもあるし、ネットでも見れると思います。
Q:動画を一本なんでもやっていいと言われたら、どんな企画をしたいですか?
文子:チャンスがあればやりたいなと思っているのが、武井武雄さんの話です。昔の作家さんで、子供向けの絵本とか雑誌の挿絵を描かれてています。
絵だけじゃなくてお話も作るし、版画や立体物など多岐に渡って作品を作られてて、ほんとうにびっくりするぐらいの作品量なんです。ちいさな学校の時に武井武雄さんを知って、本を読んで以来いつかやってみたいなって思ってるんですね。
武井武雄さんは沢山本を作り出されているのですが、紙以外にも様々な工芸技法をを使って作品を作られてて。 織物で作る絵本とか、寄木で作ってる絵本とか。そういった要素も兼ねたコマ撮り映像も面白いだろうなって。職人さんに頼んで寄木や織物の要素があるアニメーションとか、予算が出るならやりたいですね(笑)
お話も結構長いので、なかなかやろうって思えないけど、いつかはできたらいいなって思ってます。
真:僕も武井武雄さんの作品が好きで。『ラムラム王』っていうおかしな小説があるんですけど、お話が単純に面白いっていうよりは、想像力が働かされるというか。
武井さんの多岐にわたる活動をコマ撮りアニメーションという表現でやることに意義を見出せるような気がするというか、なんだろうな、その話の世界を表現することに興味があるというか。コマ撮りアニメにすることで、いろんな素材も使えるし色んな表現も使えるし、お話の中にいろんな要素を散りばめられる感じがするんですね。それを作ることで希望が湧いてくるような感じがしていて。いずれやりたいですね、目標ではあります。
ケの二のデザイン
moogaboogaさんのインスタグラムを見ると、人や動物がまじったものや、妖怪めいたもの、三角や丸など幾何学図形っぽいもの、生物と生物じゃないものがまじったようなデザインなど独特なキャラクターたちがいます。そのデザインが僕はすごく好きで、気になっていました。今回取材するなか見せていただいた文子さんの“ケの二”の人形がまさにそういう雰囲気でしたので、詳しく話を伺いました。
文子:ケの二の人形は人形と言えるかわからない、いわゆる人の形のザ人形じゃない。物をヒントに造形していく感じなんですよ。ちょっと変で、moogaboogaにでてくる人形もその要素があるんですけど。
小さい頃は人の形の人形が怖くて。実家に日本人形があって、怖がりだったので夜は見れないとか。あと、チャッキー(ホラー映画『チャイルドプレイ』に出てくるキャラクター。連続殺人鬼の魂が乗り移った人形)がすごいトラウマだったんですよ。全然知識なく見てしまって、夜に寝れなくなって(笑)そういうのもあって、人形にそこまで入れないってのがありました。
ちいさな学校に入って1年目は平面立体関わらず両方の授業をみんな受けたので人形制作をする機会があって、その時の人形の先生で保坂純子先生って方がいらっしゃったんですけど、大好きな先生でしたね。
保坂先生の課外授業で、日本民藝館に行ったことがあって。民藝品がたくさん展示してあるんですけど、基本的には無名の職人さんとかが作った器とか所謂日用品が展示されていて、そこにある物ものたちがすごく魅力的だったんですね。
なんだろう、じーっと観ていると気持ちを持ってかれると言うか、物と自分が一体化するという具合。“用の美”ってよく言われるんですけど、器が使われていく内に形が変形するわけではないけれど味を持っていくっていうのがあるじゃないですか。その物に何かが宿っていると言うか、使っていた人や作った人の愛着を感じると言うか。そこで物を意識するってことを初めてして、そこから物に対して興味がいくようになりました。
それまでは物に対してとか物を動かすこととかにあまり意識はなかったんですけど、そこからすごく影響をうけて、いまの作品を考える要素になっています。日本民藝館はすごくおすすめですよ。
『モノだらけ!』でも立体の物のもやるようになって、まだ完全立体の人型の人形というは作ってないですけど、いま作ってと言われたら作れます。真さんと人形の話を色々したり一緒に人形の作品を見たりしたので人形に対しての怖いっていう気持ちはほとんど薄れてます。
でも、本格的な人形アニメに関わることになったら、まず自分の心を整えてからやるだろうなって感じですね(笑)
物への想像力を働かせること
泰人:前に一緒にランチしたのときに、僕が「物は動かさなくてもすでに命が宿ってる」という話をしたら真さんにすごい共感してもらったことがありましたよね。『モノだらけ!』のテーマにもなると思うんですが、物の命みたいな意識はコマ撮りを始める前からずっとありましたか?
真:そうそう。その話しましたよね。もう動かさなくても良くなってきたって(笑)
物に対しての執着というか、物にも生きてるものにも変わらず接する能力は子供の時ってみんなあると思うんですけど。アニメーションって物を少しずつ動かして生きているように見せる表現じゃないですか。高校でシュバンクマイエルを見たときに、はじめてそれを意識して「これしかない!」っていう感じだったんですよ。
僕がそれまで持っていた、物のことを考えていること、物に執着していること、それらを何かしら表現するとしたらアニメーションしかないって。ちゃんと説明できないですけど、「出会っちゃった感」があるんですよ、アニメーションという表現に。
これはちょっと話し過ぎになるけど、人間が地球上で我が物顔でいま生きてるけど、僕は、人間も物も動物もそこらへんに転がっている石ころも、何もかも同等な存在と思ってるんですよ。その意識が根底にあって。そしたら物を生きているように感じさせて、共感してもらえるようにするにはコマ撮りアニメーションがベストなのかなって。
『モノだらけ!』はまさに物に命を宿すみたいなテーマですけど、たぶん一番根底にあるのはそういうこと。説明が難しいなー(笑)わかります?
泰人:わかります!
真:本当に物に命が通ってるって思ってるわけではないけど、物に対して想像力を働かせる事って人と人がコミュニケーションを取ることにも通じると思っていて。物に対しての想像することが、相手の人のことを思う想像力に繋がる。なので物に魂を込めるというところに、そういうことも込めたかったっていうか。
ものに命を宿すみたいなことをずっと考えてきて、それが自分のテーマだったんですよね。それをプチプチアニメっていう子供向けの番組の中でシンプルに表現できるかもって思って、企画を考えたんです。いろんなことに対して想像力を働かせることで、世界が豊かに見える。コマ撮りアニメーションの表現はそういうことができるものなんじゃないかなと思ってます。
泰人:なるほど、よくわかりました。実写を使っているコマ撮りアニメーションならではのテーマだと思います。本日は深いところまで話していただき、ありがとうございました。
まとめ
moogaboogaさんの作品は可愛い雰囲気の作品もありますが、単純な可愛さだけのコマ撮りとは少し違うと思って気になっていました。物のテクスチャーや物体としての存在感をすごく感じます。真さんと文子さんのそれぞれの物や人形に対する考えが、その味わいを作っていたんだと、話を聞いて腑に落ちました。
生きていない物と生きているものを同等に扱うという、八百万の神や付喪神に通じる考えは、物体を動かしてみせるコマ撮りだからこそストレートに描けるテーマかもしれませんね。すごい興味深かったです。
ラストは深い部分の話を聞きましたが、moogaboogaさんの作品は楽しく可愛いものも多いです。新作情報↓もあります。ぜひ見てみてください。
おまけ
以前に僕と高野真さんとコマコマ隊のあべさんとでランチをした時に僕がした話。
コマ撮りでコップとかを動かして見せると「可愛いー」とか「生きてるみたいですね」って言われるんですけど、僕からしたらコップは動いてなくっても充分可愛い。キャラクターにするためにコップに目玉シールも貼るけど、僕には目も必要ないくらいすでにキャラクターに見えるんです。アニマはすでに宿ってるんですよ!
という話を僕がしたら、真さんに食い気味で「そうそう!」って言われました(笑)すごい意気投合できました。
物が生きてるものだって思うと、コマ撮りでそんなに動かさなくてもいい気がしちゃいます。でもコマ撮りで物を動かしまくると、普段はそう思ってない人にも「物も生き物みたい」って思ってもらえる。他のアニメーションとは違う、コマ撮りの面白いところですね。
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プチプチ・アニメ『リコラ』
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プチプチ・アニメ『リコラ』作品紹介記事