明けましておめでとうございます。泰人です。
去年の年末に公開され、コマ撮り作家としてはすごく気になるコマ撮りを紹介します。
group_inouのimaiさんの曲『Fly』のMVです。
imai/Fly feat.79,中村佳穂
おもちの動きの滑らかさもカメラワークもヤバイですよねー。言葉にならないとはこのことか、初見のときはずっと「ヤバイヤバイ」って言いながら見ました。2〜3度目はめっちゃ黙って見ました。
アクティブ系コマ撮りと呼びたいですが、もともとアクティブの言葉には「動きは雑でもいい!」というニュアンスが(僕の中で)あったので、こんなクオリティの高いアクティブコマ撮りは度肝を10個くらい抜かれた気分です。
あと、お餅がかわいい。このかわいさはお餅そのものが持つイメージだけでなく、このコマ撮りによって作られた動き(演技)と見た目の合わせ技なので、餅がかわいいと思えることがこの映像の良さだと思います。
技術面を横に置いたら、すごく楽しい作品です(4回目くらいにようやく純粋に楽しめました)。見ててワクワクする。動いていることが楽しいってアニメーションとして最高です。作ってるの楽しそうだなーって思いました。
お餅のまわりに粉が残っていくのもいいし、ゼリーの透けた色も綺麗だし、朝晩と光が変化していく様子もいいし、お餅の滑らかな動きと周りのコップたちの速い動きという時間のズレもかっこいいし、エビフライがでてきて「そのフライじゃない!」っていうのもいいし、ラスサビでお菓子の種類がわっと増えるとこ感動するし、揚げ餅から生八ツ橋(?)や菱餅に変形していくのって置き換えコマ撮りのすばらしい使い方だと思います。それよりも全体的にかっこいい。カメラワークの動きやカットのつなぎ方、お餅のフレームインフレームアウトでつないだり、ピントをぼかして繋いだり、どれもセンスがよい。
メイキング
作者の橋本麦さんがご自身のサイトでメイキングについて書かれています。カメラワークをどうされた作り方についても、考え方についても、しっかり書かれてますので、どうぞ。
http://baku89.com/making-of/fly
メイキングの文章を読んだ個人的感想
橋本麦さんの文章を読んでいたら頭の中が爆発してしまって、いつもより長文です。
カメラワーク
ソフトウェアを作ってしまっているとは驚き。カメラの動きを制御するプログラミングではなく、カメラの動きはあくまで手動で、その結果をプログラミングで監視して、動きの良し悪しは作者が決めて実行していく。これがなめらか且つ雑味のあるよい動きになっています。撮っている人に自由度があるのがとても良い。この発想はすばらしい。
ドラゴンフレームと同時にカメラワークのソフトを使っている様子。
僕が『オオカミとブタ』を作った時は人力で三脚を動かしましたし、それ以降も何度か人力カメラワークはやったことがありますが、やはり滑らかさには限界があります。荒いコマ撮りならなんとかなりますが、全編15fpsは正直むりですね。だからソフトで動きを確認できるのはいいなと思います。プログラミングの勉強して自作しようかな。もしくは人力で滑らかなカメラワークができる職人をめざすか。
羊羹と糸、シズルの塩梅
おもちがでんぐり返しをしていくところ、三角形の黒い物体が気になっていたのですが、まさか羊羹だったとは…羊羹は自由に切れるから便利そう。
お餅が浮くシーン、編集で糸を一度消した画像を作り、透明度をいじって糸を微妙に見せているというのが驚きでした。映像を見たときに糸が見えているのは僕好みで楽しかったのですが、その見え方が絶妙だと思ったのです。
この糸に限らず、「実際はこうだけど、それを100%見せると嫌になる」ということがあります。広告だとシズルとして物の質感にこだわることが多いのですが、シズルを強調しすぎると生々しくなって嫌われることもあります。「シズルは欲しいけどありすぎるのは嫌」というわけで、バランスをとらないといけません。コマ撮りをやっている時も「紙のテクスチャは見えたいけど、見えすぎるのは嫌」みたいな注文もあります。無理言わないでくれ〜ってよくなります(笑)
でも橋本さんはそのバランスを取りにいっている。糸がほとんど見えない瞬間があるから本当にお餅が浮いているように見えるのが楽しいし、糸が見える瞬間があるから「どうやって浮いているんだろう?」という疑問をもたずにすむのと同時にコマ撮りの大変さをうかがい知ることができる。このバランスをとるためにCGを使いこなしている印象です。
人力レンダリングとアニメーションの生まれるところ
「人力レンダリング」という言葉いいですね、これから使わしてもらおう。
アニメーションをCGで作り、フレームごとに何かの素材に書き出して置き換えアニメにした作品はよく見るようになりました。そういう「CG→置き換えコマ撮り」というのはCGアニメを作る人たちからするとアナログに落とし込めることの魅力がありますよね。その延々と続く置き換え作業は技術も忍耐も必要なので、コマ撮りアニメーターが求められるシーンでもあります。そういう仕事をすると大変ありがたがられます。
ただ「CG→置き換えアニメ」の作品は、僕も大好きとは言えないタイプです。なぜかというと「アニメーションが生まれる場所がCG(プレビズ)の中」だからです。3DCGでアニメーションを作ってそれを3Dプリンタで出力して置き換えアニメを作ったとしたら、アニメーションが生まれたのは最初の3DCGの中です。それ以降の作業は“人力レンダリング”であり、そこではアニメーションが生まれる場所ではないことになってしまいがち。
コマ撮りの醍醐味の1つは「アニマ(魂)が宿る場所が手の中」という点です。人形を動かすという手先の動きでアニマが宿り、感動がうまれる。その楽しい瞬間を先にCGに奪われている。それが悲しいところです。置き換えアニメが作品として良くないという話ではないです。そして置き換えの瞬間にも動きや意味が生まれる作品もありますし、その場合は人力レンダリングではないので楽しい現場のはずです。ちなみに僕は人力レンダリングが全く苦ではないという特殊能力を持っています。延々と置き換えれます。現場が楽しいほうがよいですけど。
おわり
自分がめざすビジュアルを想定して、実現するためのツールを作って、実験も踏まえて実現していく橋本麦さんすごすぎです。自分の思考の言語化もすごいです。いつか会って話を聞いてみたい。
メイキングの文章の中に僕のコマコマだよりも引用されてびっくりしました。読んでもらえてありがたいです。
というか僕ももっと頑張らないといけないなと思いました。なんか興奮したし凹みました。
リンク
橋本麦さんのサイト
サイトデザインが白くて綺麗、オシャレ