こんにちは。
みなさん元気にコマ撮ってますか。
今日は語りというかエッセイというか。
何年か前の監督として入った撮影のときの話です。それは日用品が動くコマ撮りだったのですが、そのときにプロデューサーに「かわいくしすぎないでほしい」と言われました。それで僕はすごく悩んだんです。コマ撮りってかわいいのが得意だと思うんです。日用品もコマ撮りで動き出したらかわいいキャラクターになります。そして、その撮影のときの日用品は見た目もかわいい物でした。それなのに「かわいくしすぎないで」ってどうしようって。
かわいくならないよう、基本シンプルな動きでアニメートしてたんですが、あるシーンですごく悩んだんです。それは物がフレームインしてきて止まるというシーンで、シンプルなやり方なら姿勢はそのままにスーッと水平移動だけで終わるんですが、僕はそれをちょっと傾けた状態でフレームインして、カタッと止まる感じにしたかったんです。
ちょっと傾けるとかわいいというか、キャラクターらしくなってグッとくるというか。でもそれが可愛すぎてNGかもと悩んで、プロデューサーにおそるおそる提案したんですよ。「これ、可愛すぎないでしょうか?」って。そしたら「全然いいんじゃないですか?」って軽い返事が返ってきました。(泰人さん、なに心配してんだろ?)という表情でした。
その時気付いたんですが、僕とその人の「かわいすぎる」の判断基準は全然違ったわけです。
僕にはすごくかわいく見えるものでも、ほかの人にはそこまでかわいく見えてない。だからある程度かわいくしても「かわいすぎ」にはならない。それが分かってからは演出するのが楽でした。
これを「かわいさ過敏症」と名付けました。
僕は、コマ撮りの中でのちょっとのかわいさに「めっちゃかわいい!!」ってなってしまうんです。つまり過敏症です。
これ、かわいさに限らず色々あると思います。プロや職人から見たらすごく見えるものも、専門的でない一般人からしたらそうでもないこととか多いわけですけど、その中の1つのパターンというか。
(こんなに過剰な演出したら視聴者は飽きるだろう)と思って控えめにしたら、「もっとやってほしかった」みたいな感想もらったことありましたし。
専門的になればなるほど過敏症は進むような気がします。それ自体は悪いことではないと思います。でも、例えばお客さんが10の甘さのケーキが欲しいのに、甘さ過敏症のパティシエが「これすごく甘いよー」って1くらいの甘さのケーキを出しちゃうようなことになったら、ダメかなーって。自分以外の視点とか感覚も意識しないとな、と思ったという話。