コマ撮り上映会「撮れた展。」見てきました。どの作品もすばらしかったし、この企画自体がとてもよいものだったので、そのレビューを書きます。
作家の過去の作品のあとに新作の上映。上映後に作家9人が舞台で挨拶をして、作家さんと話をする時間があったり、映像で使われた人形の展示もあって、作家と作品を身近に感じられるとてもよいイベントだったと思います。今回の作品が今後どこかの上映会やネットなどで見る機会があったらぜひ見てください、という意味をこめてネタバレなしでレビューを書きます。
どすこい! / 今井 美月
今井美月さんは僕のコマコマ勉強会に参加してくれた方です。アートアニメーションのちいさな学校に通い、初コマ撮りをグループで制作。今作がはじめての個人制作。なので本人的には未熟さを感じたと思いますが、お話がとてもよかったです!主人公のお相撲さんの1日の話ですが、1つ1つ動きがかわいいいし、子供たちとのほほえましいやりとりがあり、ラストで笑えるオチがちゃんとあります。この構成はしっかりしていました。
個人的に注目すべきは銭湯で見えるおすもうさんのオシリ!作者は絶対にこだわって作ったはずです。コマ撮りは人形を作るところからスタートしますが、オシリこのワンカットでしか出てきません。つまりこのカットのためにわざわざオシリパーツを作ったということ。面倒だったらオシリが見えないアングルにできます。勝手な予想ですが作者はきっと力士のオシリフェチなのでしょう。
メイキング
手法はマルチプレーンでのカットアウトと呼ばれるものです。
*マルチプレーン
ガラス板の上に素材をおいて、カメラを真俯瞰にセットして撮影する手法。紙・ねんど・布・ビーズなど様々なマテリアルをガラス板に乗せて撮影できます。台はマルチプレーン台や線画台と呼ばれます。
↓ざっくりとした台のイメージです。
*カットアウト
人形を頭・胴体・手・足などのパーツにわけて作り、重ねて置いてアニメートする手法です。
おすもうさんの素材は布を使っています。他のキャラは紙とかかな。布の質感が画面に柔らかい印象をもたらしていてコマ撮りらしい作品でした。
RUBOKU / 上野 啓太
上野啓太さんはアートアニメーションのちいさな学校に通いコマ撮りを勉強された後にマガリ事務所にて真賀里文子氏に師事し、最近では「ごん」の美術制作などに参加されていました。
メイキング
こちらもマルチプレーンで撮影。キャラクタの素材は上野さんが拾ってきた流木です。
拾った流木を見て「これはどんな形のキャラになるだろう、どんな動きをするだろう」と想像をふくらませてキャラをつくっていったそう。アニメーションはアニマ(魂)をこめる技法と言われますが、今作は物に宿る魂を探り出すとこからはじまっていました。
水面
見て驚いたのは劇中に水面がでてくるのですがそれがとてもリアルだったこと。どう撮影したのか聞いたら、線画台に水を入れたケースを斜めに置いて、画面の下にだけ水が来るようにセッティングして水を通して撮影。1コマごとにゆらしてからシャッターを切って、水のゆらめきを作ったそう。そのおかげで水の中にあるキャラクターの足などがきれいにゆらめいていました!
↓ざっくりとしたセッティングイメージ
ガラスビーズ
作中にキラキラとしたパーティクルが出てきます。素材はガラスビーズで、ビーズで形を作りつつ、そこだけに光が当たるようにスポットライトで照らして、1コマずつちょっとずつさわってキラキラを作ったとのこと。ちなみにキャラクターの動きは基本的に2コマ撮り(12fps)ですが、ビーズが輝く動きはフル(24fps)でないとキラキラの表現がうまくいかなかったとのこと。
本作は水面やパーティクルの動きなど完璧にアナログな撮り方をしていて、合成的な後処理は一切してないそうです!撮りっぱなし!
ゆき / 小中 紗洋子
小中さんもアートアニメーションちいさな学校でコマ撮りを勉強された後、マガリ事務所に勤務し主に人形制作をしています。この作品はしっかりとした人形アニメです。
お母さんとけんかしたゆきちゃんが家を出て森でウサギと遊んだりするお話。白い雪と白い木がライティングで綺麗に描かれつつ、ゆきちゃんの服とウサギの目が赤色になっていて、白と赤のコントラストが美しい画面がつづきます。
木の周りの雪が溶けているのをゆきちゃんが見つけて(木が暖かいので雪が溶ける根開きという現象)、そこから画面は雪の結晶が舞う万華鏡的な世界に入っていきます。青と白で構成されていて前半との色の構成ががらっと変わるのも良いです。ここは幼い子供が生命の強さや神秘に触れて感動したり想像の世界をふくらませていく描写だと思いました。
ゆきちゃんがけんかが家をとびだして森の中でちいさな冒険をして家に帰るというストーリーなんですが、僕が父親になってからこういう作品を見ると「ゆきちゃん、帰ってきてくれてよかったー」みたいな親目線の感想になってしまいますね。感情移入が画面にはない親になるという。
生保内節(おぼないぶし) / 長塚 美奈子
作者の長塚さんは秋田県出身で、この作品は秋田県仙北郡に伝わる『辰子姫伝説』を描いたもの。こちらもマルチプレーンで、人形や龍が動いています。
作者の長塚さんはこれまでフェルト人形で楽しい雰囲気の作品をつくってました。
こちらとか↓(12秒の作品!)
コロッケ五えんのすけ from minamaruco – 長塚美奈子 on Vimeo.
今作では静かな雰囲気に挑戦したとのこと。この上映会では新しい手法や作風に挑戦する作家も多くて、その意欲的な姿勢もよかったです。
さるかにがっせん / のせ よしひろ
開始5秒くらいで「あ、これはセンスありまくりの天才や!」と思い知らされます。軽妙な語りとテンポの速いカット割り、人形造形、動き、せりふの掛け合いも、全てにセンスが光ってて、上映中なんども笑いがおきてました。驚きなのは作者ののせさんは普段は美術制作をされていて、自分でコマ撮りをつくるのが初めてだということ!
人形とセット
展示されていた人形たち。サルの顔の憎たらしさよ。カニやハチの擬人化の素晴らしさよ。
のせさんは太陽企画の社員で、つまり『ごん』のスタッフ。作中の民家などは『ごん』のセット。まわりの作家たちから「ずるいわー!」と言われてましたが(笑)、のせさんは美術スタッフなのでこの民家ものせさんが作ったもの。一応自分がつくったものなのです。
モーションコントロールカメラ
10数万円のモーションコントロールカメラを自分で購入して今作で試験的に使ったそうです。こちらのツイートで動いているのが見えます。黒いボックスの下にタイヤがあって動きます。レールいらずなので円弧の動きもできます。スマホのアプリから制御するそう。
それは禁断の柿の種だった。
普段は食べようなんて思わない柿を育てたりしなければ…貰った一粒の種から事件は始まる。
謎のミステリーサスペンス!
誰が蟹に柿の種を手渡したのか。
近日上映『さるかにがっせん』
監督のせよしひろ決して見えないなんて言わないで下さい#撮れた展 vol.01 pic.twitter.com/9Yhh72IyCm
— TECARAT (@TECARAT1) December 3, 2019
モーションコントロールを使ったシーンが何度かでてきますが、特筆すべきはそのなかでタイムスライスの演出をやったこと。まさにマトリックスでトリニティがジャンプして蹴ったシーンを彷彿とさせるシーン。猿がジャンプしたかと思ったら白黒の色調になって、時間がゆっくり流れたかと思ったら、猿が高速で柿を取りまくる!この緩急のセンスが並みではありません。
初作品で5分の勢いのあるコマ撮りを作れるのはセンスも当然あると思いますが、普段から八代監督のアニメートの様子とか見てたのかなー、コマ撮り現場に生で触れる環境にあると下地が違うのかなーとかちょっと羨ましく思いました。
Nobody knows / 松﨑 希光子
フェルト人形による立体コマ撮り作品。松﨑さんは僕と仕事を一緒にしたこともあって以前から友達で、「美術から全部自分で」というよりは、ディレクターをやる方です。
なので演出家としてのセンスが見える作品でした。おじいちゃんの朝食の様子を描いたゆったりした作品ですが、カット割や効果音を巧みに使った演出がよかったです。おじいちゃんがテーベルで食べるアングル以外に、ヤカンだけが見えるカット、ラジオだけが見えるカットなどが合間合間にあって、じかんの流れをゆったりと、それでいて飽きさせることなく見せています。
SE
老人がテーブルから歩き去った後に「カチャカチャ」というお皿の効果音で画面に映っていないキッチンでの様子を描いていたり、窓の外で起きてる何かもSEで伝わってきたり、音を使うことで直接描かない巧みな表現でした。
そして、それまでののどかな雰囲気とは違うラストの展開もよかったです。
ナ〜ンってカレーな人生 / やまだゆうこ
作者の結婚式で流した、新郎新婦のおいたち&なれそうめムービー。マルチプレーンでの半立体の人形アニメーション。
やまだゆうこさんはクレイアニメ作家で、粘土造形やクレイアニメのワークショップなどもされています。
それぞれ面白い人生を歩んでいるのですが、特に旦那さんが笑えるエピソードでしたね。
指輪のキラキラ
プロポーズのシーンで指輪がキラキラと光る演出がありました。やまださんに作り方を聞いたら、マルチプレーンのガラスにスマホのライトを直接あてて、その反射光を指輪の近くにくるようにしてコマ撮りしてたそう。アナログ手法が最高ですね。
bloom / Mei
Meiさんも仕事をお願いしたことがあって友達なんですが、彼女はとにかく虫が好きなんです。虫の素晴らしさを伝える作品を作りたいとのこと。
本日 コマ撮りアニメーション上映会🎥✨
開場17:00 / 上映17:30〜
場所 Space&Cafeポレポレ座(東中野)
ワンドリンクオーダーオオスカシバをモチーフにした作品を、Mei名義で出展します。
もし良ければお越しください。※アレンジが入っているので、種の同定の参考にはなりません!#撮れた展 pic.twitter.com/k7MamtOvLp
— tsume/【ありがとうございました🙇♀️『撮れた展。』Mei】 (@TsumeMei) December 15, 2019
クレイ人形
手法はマルチプレーンでのクレイアニメ。オオスカシバの幼虫が葉っぱをたべて糞をするところとか、さなぎから成虫になったり、彼らの生きていく様子がクレイアニメで描かれていきます。その造形や動きの細かさから、作者がしっかりと虫を観察して作ったのがわかります。実際にオオスカシバを飼って観察したそうです。
すごかったのは羽化のときのオオスカシバの羽がじょじょにひろがっていって羽として固まっていくシーン。それをクレイアニメのメタモルフォーゼで、画面全体が羽になるくらいドアップで構成していること。作者がいかに羽化の瞬間を大事に思ったかがわかります。
ラストの演出も個人的に好きでした。オオスカシバの一生を描いたものなので、最後は当然死ぬのですが、死骸が地面に落ちているカットのあとにスタッフクレジットがながれます。その背景には白い花が咲いていて、雰囲気としては静かで美しい感じ。悲しい感じとか感動的な雰囲気にしていません。生まれて死んでいくこともすべて当たり前のこと、諸行無常を感じるがそれをことさらドラマティックにお涙頂戴に押し付けてこないところに、作者の虫愛を感じます。
その上で『bloom』は虫の美しさをちゃんとエンターテイメントに近づけて観客にとどけようとしています。幼虫が葉っぱを食べるところの口元のアップとか、脚のうごきとかに楽しさとか面白さを伝えようとする演出があります。単純な虫好きの人がアニメーションを作った場合、下手をするとその生物をリアルにつくるだけで退屈な作品になりがちです(それが全く悪いわけではないですが)。Meiさんはそうならないように演出をすることで虫が好きでない人へ虫愛を届けようとしていると思います。今後も虫のシリーズをいくつも作ってくれることを期待。
フユウ・ライフ / ヨシムラエリ
イラストレーター田口美早紀子(おたぐち)の4コマ漫画をアニメーションにした作品。
ほんわかシュールで少し哲学的?なショートコントのような内容です。イラストアニメではこういうの美大の卒展とかいくと毎年1つか2つは見ますが、コマ撮りの手法で見たのは初めてかな。ちょっと間の抜けたようなお話に間の抜けたようなコマ撮りの感覚がマッチしていました。バカにしてるわけじゃないですよ。バランスの良さを褒めてますよ。上映会のラストにちょうどいいデザートのような作品でした。
さいごに
この上映会は2人の作家が飲みの席で「新作つくりたいよね。でも締め切りがないと作らないよねー、上映会するって決めてやろうか!」って言い出して知り合いに声をかけたのがはじまりだったそう。9人もの作家が仕事をしながら、新作をつくってプレミアム上映するってすごいことですよ、みなさん!!!
第一部(一般のお客さん向け)と第二部(関係者向け)がありました。僕は第二部に行ったのですが、第一部はなんと100人近くお客さんがきたそうです!すごい。おめでとう。こんな感じでコマ撮りの上映会がもっと盛り上がればいいなと思います。
vol.2もするって言ってました!ぜひ続いて欲しいです。