作品レビュー 2018年12月27日

The Entertainer

今年の6月にANIME SAKKA ZAKKAで上映した『エンターテイナー』をYouTubeにアップしました。ご覧ください。

自分の自主制作なので今回の記事はメイキングもりもりで書きますよ。

メイキング・パペット

人形制作はながしまたいがくんと阿部靖子さんにデザインから制作までをお願いしました。
ピエロとウサギがたいがくん。地球の人たちが阿部さんです。デザインの方向性がまったく違いますが、これはエンターテイメントやアートの作り手と受け手は人として全然違うのではという僕の考えから差をつけています。

ピエロ人形

初期デザインラフ(byながしまたいが)がこちら。
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ぜんぜん違いますね(笑)最初は3頭身くらいのかわいいのを予定していました。しかし、たいがくんと打ち合わせをしていく中で、僕のピエロ像の原型が鴨居玲にあることに気づきました。
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鴨居玲『出を待つ』

他にはピカソの『アルルカン』やベルナール・ビュフェの自画像『ピエロ』などもあげれますが、僕の好きな画家の多くがピエロを自画像として描いていて、そのイメージが今回の作品のスタートにあると気づき、鴨居玲のピエロに似せることにしました。

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スケッチ第2弾。右のやつを採用。

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全身と顔のマケット

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中のアーマチュア。脇と腰にある四角いパイプにタンクの角棒をさしてアニメートしました。

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おじさんピエロにしたのでItのような怖い雰囲気もありますが、怖くなりすぎないように色々と試行錯誤しました。

ウサギ人形

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マケット

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骨組みはヒューズ(鉛線)。

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手足のパーツをつけ、腕や胴にはボリュームをだすためスポンジ。

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完成。ピエロもウサギも服は和紙をベースに作りました。『リトルプリンス 星の王子様と私』を見たあとだったので、紙で作ってみよう!となりました。

地球の人たち

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街の3人。地面を見せないアングルにしたので、脚は台座に固定。

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レポーターとカメラマン。カメラマンは後ろ姿だけしか映らないので顔は作っていません。レポーターの口に鉛の板をいれて顔がパクパク動きます。

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ベランダの2人は半立体。顔のパーツと胴体のパーツに別れていて顔の角度を撮影時に調整できるようになっています。

メイキング・セットや小道具など

セットは僕が作りました。実はちゃんとした小道具作りが初挑戦です。そんな上手でもないのでメイキングを書くのがちょっと恥ずかしいですが、こんな感じでも作れるよという希望(?)になれば。箱としての部屋は1つだけつくり、家具の配置を変えることで寝室やキッチンにしてます。

部屋セット

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冷蔵庫やタンスなどの家具はスタイロフォームで作りました。『造形工作アイデアノート』をめっちゃ読みました。パンタグラフさん、お世話になりました!
ちいさな小道具は自作したり、ドールハウスのアイテム、百均のおもちゃ、食玩などを塗装したり加工して作ってます。部屋の床・土台はアトリエコシュカさんに作っていただきました。

ギター

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ギターのボディはMDFをレーザーカッターで切り、ネックなどのパーツは市販のミニチュアギターを分解して組み合わせてつくりました。

回転する月

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流れ星が飛んでいくシーンでは回転する月面をつくりました。サイズは直径30cm横幅50cm。こういう回転する舞台装置がけっこう好きです。グリーンバックで1周分を撮影してループできるように。星は素材撮りして合成しています。

地球

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プラスチックの半球に絵の具で地球の模様を描いています。夜の部分になるところは書き込んでません。

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絵の具にモデリングペースト(サンディ)を混ぜて塗ることで厚みをだして山脈っぽい表現を目指してみました。1mmもないくらいの盛り上がりなので、それに影がでるようにライティングの角度を調整してます。

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夜景部分は黒く塗った半球に穴をあけて、中に電気スタンドをいれて街の灯っぽくしてます。地球を固定して電気スタンドの位置を変えながら撮影して、それぞれの場所で綺麗に光った画像を組み合わせて、地球を合成して作りました。

流れ星

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カラフルな流れ星はクレヨンのスクラッチで作っています。画用紙に黄色いクレヨンを塗り、その上に黒のクレヨンを塗って、つまようじで引っ掻いてイラストにするやり方です。色のグラデーションは別で描いて素材撮り。それらをAfter Effectsで合成して作ってます。

撮影

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自宅での撮影。壁には絵コンテ。秦俊子さんがトークイベントで「自宅の四畳半の部屋で『パカリアン』を撮った」とおっしゃっていて、自分の部屋は5畳半だったので「4畳半で撮ってる監督がいるんだから部屋の狭さは言い訳にならない!」と気合が入った覚えがあります。

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撮影の時はピエロとギターのそれぞれにタンクをつけてアニメートしました。

ドリー

ラストシーンはレールを使ってドリーをしています。
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レールはKONOVAスライダーK3。長さが色々とあります。

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レールにメジャーマスキングテープを貼って、3mmずつカメラを動かしました。

このドリーのカットで変わった撮り方をしたと思うので解説。
カメラワーク中にピエロの手が動いていますが、実はこれはドリーと同時にアニメートしてないです。
このシーンの動きはBGMとチューニングの音を決めてそれに合わせて編集作業のなかで決めることにしました。(この撮影時には音楽も出来ていませんでした)

そこでピエロが「基本ポーズ」の状態でドリー撮影をし、「弦を引くポーズ」と「ペグを触るポーズ」のそれぞれのポーズでもドリーの撮影をしました。
カメラ位置はレールのメモリにあわせて撮影しているので、まったく同じカメラワークでピエロのポーズ違いが3セットできまして、それを編集のタイムラインに全部ならべて、音楽にあわせてどのタイミングでどのポーズ(画像)を使うかを選びました。そうやってカメラワークと同時にピエロも動いているのです。(この説明で分かりましたでしょうか・・・)

音楽

音楽は仕事でも何度かお願いしたことある樋口太陽くん。映像が完成した段階で見せてから作ってもらいました。演奏の録音にも立ち会えて、目の前で音楽が出来上がっていく様子に感動しました。エレキギターが出てくるのでもちろんエレキも入れていただきました。最高の音楽をありがとう。

ストーリーについて少し

ピエロが家具を叩いて星屑にするというシーンを思いついて、そこから話を膨らましていきました。エレキギターにしたのはジミヘンへのオマージュですね。エレキギターって世界と自分を壊すための装置だと思ってます。

そのあとは「ピエロは星屑をどうするんだろう?」とか考えながらストーリーを繋げていきました。そして出来上がったものを見たら、僕の中でのアーティスト像とかエンターテイナーの理想像みたいなものを描いているなと思いタイトルをエンターテイナーにしました。

作家というのは、自分のことを犠牲にして作品をつくって、好き勝手なことをして若干迷惑をかけながらもそれを観客に見せて、終わったら何食わぬ顔して帰ってくる。産みの苦しみはあるけれど、友達と打ち上げしたらその苦しさはもう忘れちゃって次のことを考えてる。作家ってそんな感じじゃないですか。どうですか?そして、その生き方は同時に嬉しさも悲しさもないまぜにしたピエロみたいだなーと思ったのです。自分がそうかというと分かりませんが。

さいごに

本格的な人形アニメも美術制作も初めてなことが多くていろいろと難航しました。見返すと稚拙だなーって思う部分もあります。でもやっぱりコマ撮りは面白いですね。普段は雑貨を動かすが多いので、人形のアニメートすること自体が面白かったです。ギターを振り回すシーンを撮った時に「本当にギターを振り回してるよー」って興奮しながら撮影したのを覚えています。あと歩くアニメートはやはり難しかったのですが、出来たときの達成感がすごかったです。

美術についても地球や流れ星の表現をどうやろうかとか試行錯誤しまくりました。合成も駆使して、いろんなやり方を試した作品となりました。クレヨンスクラッチの表現はとても綺麗だったのでいつかこの手法だけで作品をつくってもいいですね。

長いメイキング記事につきあっていただきありがとうございました。それでは、次のコマ撮りで会いましょう。

スタッフ

監督:竹内 泰人
人形:ながしま たいが & 阿部 靖子
音楽:樋口 太陽(OFFICE HIGUCHI


ABOUTこの記事をかいた人

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「コマ撮り大好きコマドリスト」を名乗って活動中。
コマ撮り映像作家、CM監督、アニメーター。本人が監督するだけでなく、他の監督の企画にコマ撮りアドバイザーとして参加することも。

マネージメントはCM制作会社キラメキ。お仕事の依頼はこちらまで
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日記サイト【無重力とザクロドクロ】
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