阿部の自主制作作品「Claypet」の紹介です。2019年の1月に完成し、ありがたいことにいくつかの映画祭で上映していただいたり、入賞することができました。
今回はこの作品のメイキングを書いていきます。
何を作りたいかより、条件を先に考えた
撮影したのは2017年6月ごろ。企画を考える時にいくつか条件を決めました。
・当時アパートで一人暮らしをしていたのですが、部屋は6畳くらいしかなく、生活スペースを除けば撮影に使えるのは2畳弱。そこで作れる作品。
・粘土アニメをちゃんとやったことがなかったので、練習も兼ねて粘土でやる。
・CGに見えないように、生身の人間を入れる。
そんな条件と、日頃からの「ペット飼いたい、でも飼えない・・・机の上で飼えるお手軽ペットがいたらいいのに」という想いがパチっと繋がって、このような作品になりました。
撮影風景。部屋の隅をIKEAの遮光スクリーンで仕切っています。
美術はありモノ
早く撮影に入りたかったので、美術はとにかく手間をかけたくなく、ほぼ100円ショップで買ってきた小物を配置。小物を選ぶときのテーマは「作り手の性別、国籍を特定しない」でした。当時、男前インテリアというのが流行っていて、セリアに中性的な小物がたくさんあったのがラッキーでした。
机の天板はホームセンターで買った木材を傷つけて色付きニスで塗装。油粘土の汚れがついても拭き取れるようクリアニスでコーティング。
人形も動きもその場で考える
粘土はクレイトーンを使っています。誰でも粘土をこねたらササっと作れてしまいそうなゆるい感じを出したかったので、粘土をこねながらデザインを決めました。
芯はコルクとアルミ線を入れてますが、使わなくなった部分を途中で切ったりしてたので最終的にはどうやって入っていたのかもうわかりません。
人形はクレイ状態、犬、ネコ座り、ネコ立ち、カメレオン、鳥の完成形を一つずつ用意して、メタモルフォーゼするところは、撮影するときにその場で形を作っていきました。
メタモは中間の変化する形の素材を事前にたくさん作っておいて、撮影中は置き換えるだけ、という方法が効率的ですが、素材を一人で全部作って保管しておくのは大変なので、撮影に時間がかかっても、その場でアイデアを盛りこみながら即興でアニメする方が今回の自分には合っていました。楽しかったです。
絵コンテは描かず、犬になる→骨を投げる→追いかけるなどざっくりとプロットを書いて流れを決めました。
細かい動きや立ち位置は画面を見ながら決めていきました。「猫のジャンプ、一回じゃつまらないな。二回でも物足りない。ええいしょうがない、もう一回飛ぶか。」と行き当たりばったりを楽しみながら撮影しました。なんの責任もない自主制作だからこそですね。
手の合成と失敗
手と人形は、接触していない時は別々で撮って合成しています。でも人形だけを撮ればいい時も、手がなくなると人形に影響する光の反射が大きく変わってしまうので、撮影時は毎コマ同じところに手を持っていってあとで消しました。
これがしんどかったのですが、今思えばまったく無駄な作業ですね。手に似た色と大きさのハリボテを用意して置いておけばよかったね。
手と人形が接触していると一緒に撮るしかないので、鳥の撮影が一番手を酷使しました。
鳥を突き出しで固定して、アニメが終わったら手を元の位置に戻します。ほんの少しの力の入り具合で、血流が変わり肌の色が変わってしまうので、それを毎コマ合わせるのに苦労しました。案の定、後半は手が痺れて痛くなってきて、これは自分だからいいけど、とても人には頼めないなと思いました。
休憩の時は下に紙コップを置いています
余談ですが、そのあと偶然仕事でコマ撮りの手タレをやる機会があり、この経験があったので毎コマ同じ手の形を再現するのが早くできました。おや、やっぱり人生に無駄なことはないですね。
音楽でカット割のかわり。
音は、台詞のないこの作品にとって大事な要素です。
まず、音楽。動物ごとに違った雰囲気の音楽を当てて、パート分けしたい。でもぜんぶ共通する旋律にしたい。最後は飼い主の口笛と鳥のセッションにしたい。
という難しい要求をかなえてくれたのが、江口拓人さんです。
なにしろアニメが行き当たりばったりなので、各パートの秒数もバラバラで、動きのリズムも揃ってない…というひどい条件にも関わらず、各キャラクターの性格まで伝わる、素晴らしい曲を当ててくださいました。
効果音で台詞の代わり。
効果音は柳田耕佑くんにお願いしました。
柳田くんはプロの録音部です。効果音を一から作るのは初めてだったそうですが、本当に初めて?と思うくらい音のことを知り尽くしていました。プロの整音作業を生で見られたのは感動的でした。
まずは柳田くんとホームセンターにいって材料になりそうなものを探しました。マイクの前でゴムホースを振ったり机を擦ったり、消臭ビーズをかき混ぜたり、メジャーを伸ばしたり引っ込めたり、なんでメイキング映像を撮っておかなかったんだろうと後悔するほど面白い作業でした。
イメージ通りの音を作るのはこんなに大変なのだということ。逆に、イメージ通りの音を当てたはずなのに、通しでみたら作品の意図と違った、なんてこともあり音の演出の奥深さを垣間見ることができました。
自分の機嫌をとる
私はとても飽き性です。自主性が試される作品作りを最後までやるには自分の機嫌をとる必要がありました。
アニメートがやりたい!というのがメインの欲求だったので、それ以外の部分…美術や人形作り、絵コンテ、アングル替え、照明替えなどはできるだけ削りました。
もちろんやればやるだけクオリティは上がったかもしれませんが、自分が最後まで楽しく作るために少しでも面倒だと感じる作業はなくしてしまいました。結果的にものすごくシンプルな作品になって、そこは気に入っています。
さて、、ここまで書いてきてなんですが、コマ撮りの制作は本来、準備が命、事前の設計が命です。好きなことしかしたくない、アニメは行き当たりばったり。仕事でやったら、まぁ、信用をなくします。
でも自主制作なら、こういうゆるくて自分中心なやり方もアリじゃないでしょうか。