今回は清澄白河にあるスタジオプラセボにお邪魔しました。
スタジオプラセボは自社で企画からディレクション・作画・美術制作・撮影・編集までまかない、
人形アニメーション・3DCGアニメーション・2Dアニメーションなど幅広い分野で
企画開発から完成まで一貫して行うことができるアニメーション制作会社です。
【おもな作品】
Eテレ プチプチアニメ 「エディ」「ふわふわアワー PuiPui&MuuMuu」
TVCM 東芝SHAPE 「Corporate branding content」編
GANMA! アニメ「焼肉店センゴク」
TVCM JAバンク 疾病サポート付住宅ローン「がんばるパパ」編
NHKメディアテクノロジー 8k人形アニメーション「あの日まで」
他多数
「エディ」カエルのエディが毎回いろんな対戦相手たちとストリートバスケをするお話です。バスケの動きがリアルでかっこいい!「ふわふわアワー PuiPui&MuuMuu」毛糸と羊毛フェルトで出来た世界がかわいらしいアニメーション。ふにょふにょと柔らかく動くプイプイとムウムウに触ってみたくなります。
今回は工房スペースを見学
一階は工房と撮影スタジオ。工房の奥の部屋には約30畳ほどのスタジオスペースがあります。(この日はCM撮影中の為、写真NG)
二階にはオフィスとデジタル作業用のパソコンルームがあり、2Dや3DCGのアニメーションはそこで作られています。
今回は時間の関係もあり、一階の工房スペースのみ取材させていただきました。
広くて明るい工房スペース(写真は一部)に、たくさんの道具や造形物が並んでいます。
ここでは主に造形を担当されている下井孝司さんと氏家裕太さんが常勤で作業されています。
大量の道具に囲まれた下井さんの机!
下井さんはスタジオプラセボとして活動される前からも道具を集め続け、中には10年以上使っているものもあるそうです。
「自分は造形担当なので、少しでも早く、効率よく作業するためにいろいろな道具を揃えています。たんに好きっていうのもあるけど・・・(笑)」
ピンセット
幸和(コウワ)のピンセット。用途に合わせて何種類か揃えているそうです。
力が入りやすく、軽い力でしっかりと挟むことができるところがお気に入りだそう。
幸和のピンセットは町工場で作られていて、医療現場などでも幅広く使われているそうです。
手作り集塵機
リューターなどで造形物を研磨したりするときに、粉塵が飛び散らないようにするための集塵機。買うと結構なお値段がはりますが、プラセボでは色々なパーツを組み合わせて手作りされていました。
受け皿の部分に造形物をかざして研磨すると、吸い込み口から細かい削りかすが吸い込まれて行きます。細かい粉塵は人体に有害なだけでなく、作業場を汚すので、研磨作業をたくさんする場合集塵機は必須のアイテムです。
受け皿の先を辿っていくと・・・ホースが太い塩ビパイプを経由して、赤いバケツに接続しています。塩ビパイプから伸びたもう一つのホースの先は市販の掃除機に繋がり、吸引する仕組みです。
特別に分解して見せてもらいました。
この二股の構造はサイクロン(分離器)構造を再現しています。大きなごみや重い破片は塩ビパイプの中で分離され、下のバケツに落ちていきます。微細な塵のみが掃除機側に吸い込まれるので、掃除機が目詰まりしてすぐに吸引力が落ちてしまうのを防いでくれます。 複雑そうに見えますが、実はホームセンターで売っているホースや塩ビ配管、電気スタンドの傘など、身近で手に入るパーツがほとんど。レジンなど有害な素材を研磨する作業が多い人は、安全のためにも真似してみてはいかがでしょうか。
サイクロン構造についてはこちらのサイトがわかりやすかったです。
参考URL:http://diytool.biz/dust_collector_type
手作り乾燥室
粘土や塗料を乾かす時間を短縮し、生乾きの造形物を埃から守る役割もあります。
コンパネで組んだ木の箱の下部に穴をあけ、市販の布団乾燥機のノズルを接続して温風を送ります。寒い日や雨の日には特に重宝しそう。
内部は網棚を取り付けてあり、一度にたくさんの造形物を乾かすことができます。
金工作業部屋
プラセボの工房の素晴らしいところは、作業ごとに部屋が分かれているところです。
写真は金工作業のブース。他に、塗装ブース、フォームラバーブース、昇降板などが置かれた木工作業用のブースもあるんです。(写真撮り忘れた…)
全てドア付きの小部屋になっているので、木工・金工作業の音や粉塵、塗装作業による臭いの拡散が最小限ですむところが素敵。
阿部も何日かプラセボの工房で作業させていただいたことがあるんですが、部屋ごとに必要な素材や道具類も分けて収納されているので、とても使いやすかったです!
フォームラバーの部屋
フォームラバーとはその名の通り、発泡ゴムのこと。とても柔軟な素材で、人形の手足などよく動かす部分に使われます。
仕上がりは化粧用のパフような質感。バリはあとでカットして、きれいに処理します。
フォームラバーを作るには材料を撹拌し、型に流し込んで焼く工程が必要です。
なんとフォームラバー用オーブンも手作り!どうやって作ったんですか??と聞いたら、
秋葉原でサーモセンサー(温度を測る部品)を買ってきて、熱源は家庭用のセラミックヒーターを横に取り付けてある。温度調節のツマミだけは外して、前面に持ってきてるけど、難しい構造ではないよ」
とのこと。
裏側も拝見。そこには確かにセラミックヒーターが…!
フォームラバーを「焼く」オーブンを作る、と聞くとすごく機械的で難しいイメージがあったのですが、100度ということは、温度が非常に高い乾燥室のような感じなんですね。
とは言え、自作は流石に難しい…という方でも、小さい造形物なら家庭用のオーブンレンジでも焼けるそうですよ。
現在は国内でコマ撮り用にフォームラバーを焼いている人はあまり多くないようです。
フォームラバーは攪拌する時間、焼く時間の管理、焼きあがった素材の仕上げ方法など 実際に作っている人にしかわからないノウハウがあり、試行錯誤する時間がどうしても必要になります。
しかしシリコンに比べると軽くて柔軟性が高いため、フレキシブルに動かしたい人形や、表面が滑らかな質感の人形を作るには適した素材です。
下井さんは「一人でやっていると、どうしても偏ったやりかたになってしまうから、他にフォームをやっている人がいたら交流して情報交換してみたい」とおっしゃっていました。
おまけ
カメラ機材のベローズを改造して作られたタンク(突き出し)。
アニメートの時の突き出しとしてはもちろん、造形の時にちょっと造形物を固定して置いたりするのにも使うそうです。
タンクにベローズを使うアイディアは、プラセボのアニメーター・溝口さんの発案だそう。
実は阿部も、これを真似して自作したものを使っていますが、真鍮などで一から作るよりも工作の手間が少なく、ギアが滑らかに精密に動いてくれる所と、重い人形でもしっかりと支えてくれるところが使いやすくてかなり気に入っています。
彫刻刀の柄に、刃先の形が描かれています。目的の刃をサッと取り出すことができて便利!
筆のようで筆じゃない!?これはシリコンブラシという商品。型取りの時の粘土をならすために使うそうですが、造形物の形にフィットするようにたくさんの種類が揃えられています。
机の片隅に、目を引くお顔が・・・!10年来の相棒?だそう。
スタジオプラセボのここがすごい!
・大量の道具と素材が使いやすいように配置されている!
・売っていないもの・高額なものでも、必要なら自分たちで作ってしまう!
すべて、造形の作業が安全に効率よくできるよう考えられて実践されているところがすごいなと思いました。今回は工房の一部分のみのご紹介でしたが、機会があったらスタジオ内とデジタル作業のスペースも紹介したいですね。
最後にスタジオプラセボのみなさま、忙しいお仕事の合間を縫って対応してくださり、ありがとうございました!